第一章

 祖母は不思議な人だった。

 話しかけると何時も、ニコニコしながら頷くだけであまり声を聞いたことがなかった。

 私が初めて祖母の声を聞いたのは、一昨年の冬のことである。あまり雪の降らないこの街にシンシンと雪が降っていたのを覚えている。その日は祖母の誕生日で何歳になるかは知らなかったが祖母を祝ってあげようとケーキを買って祖母の家に向かっていた。

 祖母の家につき、玄関を開けようとしたが開かなかったので玄関の前で祖母を呼んだのだ。

 家の中でぼそぼそした声が聞こえた気がしたので、テレビをつけたまま寝てしまったのだと勝手に解釈し、庭の窓から入ることにした。

 廻ってみて異変に気づいた。祖母の家は一階にしかテレビがなく、その一階のテレビはついていなかった。

 嫌な予感がし、窓を開けようとしたが開かない。鍵は掛かっていないのにビクともしない。私はとっさに庭にある植木鉢を持ち上げ窓に向かって投げた、不思議なことに植木鉢は窓にぶつかる直前で垂直に落下した。ドスンとも音をたてずに初めっからそこに植木鉢があったかのように。

 どうしていいかもわからず、ひたすら大声でおばあちゃんと叫び続けた。大声で呼んでいたからなのか、祖母がリビングに来たのだ。初めて見る祖母の着物姿だった。紫色の綺麗な着物に金色の帯、とても綺麗だった。外にいる私に気づいたのか祖母は窓際まで近づき何かを喋っていた。祖母の声を聞こうと窓に近づくと祖母はポツリと。

「ごめんね」