第一章 暗中に泥む

 ともあれ幾度となく通ってきた道だ。迷う事なく一息に越え、反対側の尾根を歩く頃には霞みなど微塵も残っていなかった。

 途中で見つけた木の実を喰みながら麓へ下りると見えてくる石造りの門。
 ここが入り口。
 老樹の国の居住領域へと連なる玄関口だ。

 だが、イドを待っていたのは天変地異だった。

 書状を門番に提示してややあってから後頭部に走る衝撃。その直後、イドの空が半分になった。風景が横倒しになった。

 世界が、倒れた。


 正直な話、投獄された理由などイドには分からない。
 当事者であるというのに。
 
 しかし実際そうなのだ。

 たとえば老樹の国に何か変事が起き、入国自体が出来なくなっているだとか、そういった話は一切聞いた事がなかったし、そもそもそのような国情ではなかったとイドは記憶している。

 だから、分からない。
 むしろ逆に教えてほしいくらいだとイドは思う。投獄にあたる理由を。その、経緯を。

 そして牢へ投げ込まれてから幾日過ぎたか分からないが、いつまで経っても着到しない自分を友は心配してはいないだろうか。出来ることならば無事であることだけでも伝えたいとイドは願う。