Y 死と再生

「……十三番」

 後ろを見るまでもなく、その声は【世界】のものだった。

 わずかな違和感を抱きながら、十三番は振り返る。【世界】はすでに廊下から中庭に大股で踏み入っていて、十三番が違和感の理由に思い至る前に目の前まで接近した。

 顔はうつむいていて、十三番からは表情が覗えない。

「君は馬鹿か」

「は──?」

 真意を問うまでの間もなく、十三番の呼吸が不自然に途切れた。

【世界】が十三番の脇腹に向けてのばした手は、自らうつむいて視界を制限しているにも関わらず、正確無比に傷のある場所を掴んでいる。

 加減こそされているものの、治りきっていない傷を刺激されれば当然痛覚が発生する。思わず下を向いた十三番は、素っ気なかった口調に反して穏やかな表情の【世界】と目が合う。

 見る者をむしろ不安にさせる穏やかさを保ったまま、【世界】は言葉を繋いだ。

「一応腹を刺されたのだから部屋で安静にしていたまえ。心配するだろう」

「その傷をえぐるようなことをしながら言──」

【世界】の手は反論を許さなかった。

 十三番の言葉を途中でうめき声にしてから、【世界】が言う。

「まず『腕』をしまうがいい十三番。まだその魔術を使い慣れているとは言いがたいだろう」

 促されて、十三番は【死神】の魔術を解除。同時に白骨の左腕が姿を消す。

 眼窩のようになっていた左目も元に戻ったのを確認して、【世界】はようやく傷口を掴んでいた手を離した。

「素直でよろしい」

「ほとんど脅迫じゃなかったか?」

「惜しいな。あれは命令だ」

 なぜか得意げに言った【世界】は、手を腰に当てて薄い胸を張る。

 その拍子に身にまとった──というよりは巻いただけの布が肩から落ちかけて、【世界】が慌てて押さえるなどという事態がなければ、十三番も「どこがどう惜しいんだ」と聞けたのだが、

「さっきのは命令だが、ここからは忠告だ」

 布をどうにか巻き直した【世界】が言葉を継ぐ。

「知らないようだから教えてやる。私は【世界】、アルカナを作った【世界】だ」

「……? その話はもう聞いて」

 反論中断。

 今度は【世界】の人差し指が、十三番の脇腹にある傷を小突いた。