W 腐敗した風
口角を上げて笑み、目を細めて怒り、眉尻を下げて泣いているようにも見える。いくつもの感情が混ざり合って表に出てきているようで、十三番は言葉を失った。
「だから、彼らは私たちを拒絶する。彼らの内の繋がりは強固だが、外部からの刺激に弱い。語って理解しあえる余地など、奇蹟という技術は持っていないんだよ」
滑り落ちるように、【世界】は窓枠から下りる。
そして、目を閉じて長く息を吐く。慣れないことをした、とでも言うように首を回し、目を開いた次の瞬間には先ほどまでの複雑な表情は消え去っていた。
なにかを企んでいそうな、意地の悪い笑みを浮かべる【世界】が、戻ってくる。
「ま、相手がどんな考えを持っていようが、君には彼らを殺す理由がある。──そうだろ?」
単純明快な結論に、十三番は沈黙で応えた。
早々に気持ちの切り替えを終えたらしい【世界】は、喉を鳴らして笑いながら十三番へ歩み寄る。
「それじゃ、あれに動きがあったら伝えるから、君は神殿内でも見てきたまえ」
言って、【世界】は両手で十三番の体を押した。
言葉はともかくとして、行動にも有無を言わせない力がある。十三番は、バランスをとりにくい上体をどうにか支えながら歩く。
「どうやって伝えるつもりだ」
「……まぁ、適当に」
「答えになってないぞ」
抵抗じみた確認もむなしく、十三番は廊下へと追い出される。
背後で扉が閉まる寸前、【世界】は思い出したように隙間から顔を出した。
「なぁ、君──」
言葉を切った【世界】に、十三番は向き直る。
「ここに来たこと、後悔しているか?」
迷いに迷った末に絞り出したような声で、【世界】が問う。
十三番は意味を掴み損ねて、数瞬だけ思考に空白を生じさせる。今までの行動をさかのぼって、名も知らない誰かの記憶に辿りつき、やっと【世界】の問いの意味を理解した。
「……それは、俺には判断がつかない」
十三番の自我は、ここに来てから生まれたものだ。
「そう、か。そうだな、忘れてくれ」
【世界】はそう言って目を伏せると、頭をひっこめて部屋の扉を閉めた。
静けさの中では、その音すらよく響く。
外から入る光で廊下は明るくなっているが、それでも人の気配がどこからも感じられない。扉の閉まる音が完全に消えても、他の音がなにも聞こえないほどだった。
十三番は左右に軽く目を走らせて、ため息を吐いた。