第六章

「ナイト・ハンターであることを避けるために造りかえるのだから、この名前も駄目だ。ヒトが付けた名前、ナイトダイバーは……まぁ悪くはないが、少しばかり悪い冗談だね。ヒトがナイトハンターと呼ぶモノたちが、本来ナイト・ダイバーと呼ばれるモノなのだから、やはり別の名前がふさわしい」

 ──本当に?

 スメラギの独白を聞き流しながら、ナイトダイバーは蛇の侵食に抵抗する。アイデンティティ。ヒトであった頃から変わっていないものならば、ある。自分を納得させるには曖昧すぎて、言葉にするには少しばかり抵抗を覚えるものが。

 だけど、それでも、今は四の五の言っている場合ではない。ナイトダイバーは自らの最後の砦に全てを賭ける。曖昧なものを明確にする。言葉にすることに躊躇しない。

「何を、言ってる?」

 ウロコに包まれた腕を左手で掴む。金の瞳が見開かれた。ナイトダイバーは気にも留めない。気に留める余裕もない。魂の性質を造りかえているその中途にある体では、声を発することにも体力を使う。

 理不尽に奪われようとしている『自分』を取り戻すためならば、残った体力を考える余裕は、ない。

 ナイトダイバーは言葉を尽くす。並べる。重ねる。連ねる。

「名前なんてものは、曖昧だ。僕は僕以外のなにものでもない。どれだけ多くの人に知られている名前だろうが、どれだけ本質に近い名前だろうが、そんなものはどうしても曖昧になる。だって、僕以外のモノが勝手に決めた名前なんだから」

 駄々をこねているようだ、とナイトダイバー自身も思っている。我が儘で、独りよがりで、自己中心的だ。