第二章

 気にする余裕がなかった、とも言える。パソコンのモニターを見つめる彼の横顔を見た優菜が、慌ただしかった挙動を止めたほど。歓喜と憎悪、困惑と希望を詰め込んだような、複雑な瞳だと、優菜は思う。こもった感情は不安定なのに、視線はまっすぐに一点を貫いている。

 追って、優菜はモニターに目を向ける。真っ黒な背景。どす黒い赤のフォント。都市伝説ナイトハンター。その下に綴られた、いくつもの書き込み。あふれかえった大量の目撃情報。その中の一つが、モニターの中心に。



 俺、この掲示板ずっと見てたんだけど、やばい。俺も見ちゃった。たぶん、社会人。スーツ着た二十歳くらいの男が、裏路地に引きずり込まれてった。夜十一時くらいだったと思う。

 引きずっていったやつが、ナイトハンターだと思うんだけど、変なんだよ。ここの情報ずっと見てたから分かるけど、あれってほとんど獣型なんだろ。でも俺が見たのは人っぽかった。いや、完全に人ってわけじゃなくて、体は全部爬虫類っぽいウロコに覆われてて、下半身が蛇。上半身が人間なんだ。

 で、顔のところだけ妙に人間っぽくって、ウロコがねーの。長い紫色の髪しててさ、よく見えなかったんだけど、あいつの笑顔がヤバかった。いや、ナイトハンターの時点でヤバいんだけど、なんかもう、人ってこんな表情できるんだなって感じ。確かにあいつは人じゃないんだけど、形が人だったからさ、気味悪くて仕方なかった。夢にも出てきやがったよ、あいつ。

 ナイトハンターがなんなのかは分かんねーし、なんのために人をさらうのかも分かんねーけど、あいつは、なんていうか……