第一章

『い、いました! 皆様見えますでしょうか!? あの都市伝説・ナイトダイバーが、今、我々のカメラの前に姿を現しました!』

 不愉快だ。

 首の後ろ、うなじの辺りがちりちりする。苛立ちはつのるばかりで、しばらくはその感覚に耐えるしかなさそうだった。

 原因は、背後でホバリングしているヘリコプターだ。ボディーにはマイナーなテレビ局のロゴ。その上、メインローターの起こす風が、僕の髪をぐしゃぐしゃにする。辺り一帯に響き渡るのは、ブレードが空気を叩く音。ヘリの後部にあるドアから、銃口みたいに突き出されている漆黒。あれはたぶんカメラだろう。レンズと目が合った、そんな気さえする。

 視線を前に戻しつつ、思考も過去へと戻していく。まずは落ち着こう。さて、さっきまで僕は何をしていたんだったか。

 日が沈んだから、街に出た。スーツを着たアナウンサーが、何か深刻そうに話していたから、たまにはニュースでも見るかと大型モニターの前で立ち止まった。最近、夜の東京で行方不明者が続出しているらしい。この街も物騒になったものだと、割とどうでもいいことを考え、その後……

 そうだ。その後、なぜか駅前のモニターに映る番組が、ニュースからバラエティーに変更された。都市伝説を追うとかいう、一年前に流行したような安っぽいバラエティーに。

 どうして、だろう。内心で首をかしげる。

 今カメラが映している場所のモニターで、カメラが映しているものを発信するなんて、非効率的というか、無駄というか。パフォーマンスのつもりだろうか。