Code2:HIMINGLAEVA

 一目で「余所者」と知られてしまう姿をしていれば、亡命未遂者であると疑われてマークされる可能性は自然と高くなる。一度世界の覇者となった帝国は特に支配欲が強く、公国のことも「反乱軍」と称して独立を認めていないほどだ。亡命者に対する取り締まりはもちろん厳しい。

 一体どれほどの危機を潜りぬけてきたのか。東方出身と思しき男の双眸に輝きはない。

 異国情緒と言うべきか、同じ軍服をまとっていても隠しきれない異質さを醸し出す男は、どこか別の世界の人間であるような雰囲気をただよわせている。

 東方の人間に対して偏見を持ってはいないと自覚しているつもりなのだが、ブラッドは男から目を反らせずにいた。「珍しいもの」として見てしまっているのだろうか。わずかな自己嫌悪が芽生えようとして、その直後に背中に氷が叩き込まれた。

 無論、物理的にではない。東方風の男がブラッドへ視線を向けた──それだけで、ブラッドの背中に寒気が駆け抜けていったのだ。

 インクで塗りつぶされたような黒瞳。感情のうかがえない視線。その中には数多くの負の感情が込められているようにも感じるが、寒気の理由はそれだけではない。むしろ、本質は他にある。

 男の顔の右側をおおう、火傷の痕だ。軍服の襟の下、首筋までのびている火傷痕は、火事か爆発にでも巻き込まれたのではないかと思わせるほどの大きさだった。黒々とした瞳とあいまって、火傷は男の雰囲気を一層不気味なものにしている。