Code1:KOLGA

 雲の上を、一匹のキンギョが泳いでいた。

 パールシルバーの塗装を施された金属製の魚は、流線型の本体と複雑な曲線を描きだすヒレを持っている。本体とヒレはそれぞれ独立した別の部品で作られ、磁力によって接触することなく繋がっていた。特に華美な印象をあたえる尾ビレ部分は、十を超えるパーツで構成されている。

 通常、水棲生物をモデルにしているシリーズ・エーギルの機体のヒレは、金属の骨格に強化繊維の被膜を張って風をとらえる。これは機体に搭載された反重力機能が不完全であるためで、機体の軽量化と浮力の確保が必要だからだ。

 つまり、被膜による浮力確保をしていないキンギョ型の機体は、完全な反重力機能を搭載したプロトタイプ──シリーズ・エーギルの中でも型番を持たない特別製である。

 Series Aegir‐Project9 KOLGA(コールガ)

 華美な見た目に反して、名は「押し寄せる大波」の意味を持つ。無駄が多いようにも見えるが、その実、コールガは闘争に特化した『波の乙女計画』に属する九機に含まれている。

 元より成功品として名を上げてきたシリーズ・エーギルの中でも、『波の乙女計画』は特に「最強」という言葉と共に語られることが多い。

 ──にも関わらず、コールガのコックピットに収まるパイロットの表情は優れなかった。

 パイロットは、二十代前半と思しき青年である。軍人らしく短く刈り込んだ髪はダークブロンド。眉根を寄せて顔をしかめてはいるものの、瞳は爽やかな夏空を思わせる空色だった。

 ブラッド・ベイリー。

 それが、コールガを操る青年飛行士の名だ。