序
『うん? 息が乱れているな。野外で行為に及ぶのはやめておいた方がいい。癖になったら大変だからな』
誰がするか。といつもなら合いの手を入れるところだが、今はそれどころではない。
当夜坂凜子について。今目の前にいる女の子のことについて伝えなければならないことがある。
「先生。聞いてください。ちょっとおかしなことになりまして」
『? 君の頭がおかしいのはいつものことだろう?』
「先生。ふざけている場合じゃないんです」
『はあん? 私はいつだって真面目さ。不真面目だったことなんてない。ないね。皆無と言ってもいい』
「先生!」
六呂師の怒号に水上の軽口が止まる。
しかしそれも一瞬。数秒も経たずに再び言葉を吐き出す水上は、やはり軽口だった。軽口でしかも饒舌だった。そして、
『ふふ、怒りは何かを解決するのかな? だとすればこの世は戦争こそが正義だよねえ。ねえ六呂師くん、君はなんで苛立っているんだい。それともあれかな? ただ単純に、私服姿の同級生を見れたからはしゃいでいるだけなのかな?』
見透かしたような口ぶりだった。
『君の目の前にいるのは当夜坂凜子本人さ。それで間違いはない。し、間違いはある。まあ、説明は後だ。今はとりあえず、確認してほしいことだけ簡単に指示する』
水上は言う。
『彼女の足元を見てみろ』
言われるがまま六呂師は当夜坂凜子の足元を見、端的に言葉を述べる。
「ない、です」
冷静に、短く、簡潔に。