序
3
「私は調べ物をしてくる。君には買い物を頼みたい」
という水上の指示を受けた六呂師は、自転車(ロードレーサー)をかっ飛ばして学校近くにあるスーパーマーケットに来ていた。近く、といっても学校からスーパーまでは徒歩でニ十分、自転車で十分かかるくらいの距離はあるから、近くとは言い難い。どちらかといえば最寄りというのが正しい。
コンビニでもあればいいのだが、御所野高校を擁するこの町は地方も地方。片田舎も片田舎。最寄りのコンビニは駅周辺にある二店舗と、隣町との境目にある一店舗の計三店舗しかないうえに、スーパーよりも遠いのだった。
ちなみにこのスーパーマーケット、町内最大の商業施設だったりする。
到着してすぐ、六呂師は目的のコーナーへ向かった。
「えっと……あ、あったあった。あとは……あっちか」
塩一キログラム。
と、
書道半紙清書用二十枚入り。
一体この二つを何に使うつもりなのか。
用途は分からないにしても、塩はとりあえず置いておいて、書道半紙くらいなら水上は自分でなんとかできたのではないだろうか。仮にも、いや紛れもないのだけれど書道部顧問なのだから。
とりあえず、この二点。
締めて二五一円。
学校を出る前に水上から渡された封筒(購入代金が入っている)を制服上着のポケットから取り出して中を見る。
「…………」
一〇〇円硬貨が二枚。五〇円硬貨が一枚。一円硬貨が一枚。
紙幣はなかった。野口も樋口も福沢もいなかった。英世も一葉も諭吉も不在だった。あったのは、八重桜と一重菊と若木だった。
計二五一円。