第四章
短いけれど凝縮された謝罪に、ヴィオレは思わず立ち止まった。
最下層で聞いたときには力を持っていなかったレゾンの言葉が、今はこんなにも簡単に足を止める。
「私のわがままで振り回すことになってしまった」
「……バカ」
淡く笑みすら浮かべて、ヴィオレは短く応えた。
親代わりだと思っていたレゾンが、たったこれだけを伝えるのにいくら時間を使ったのだろうか。親子の立場が逆転しているような気さえする。
「レゾンは私のことを気にしすぎだよ。もっと自分のこと考えてよ」
「すまない」
「だから、もうオペレーターに戻して」
「それはできない」
レゾンの拒絶は思いのほか強かった。
「緊急時の指揮系統は単純であるべきだ。情報伝達は私がマルチタスクで行う。浅間と人類の命運と──なによりヴィオレの命がかかってる。私が必要な条件はそろっているはずだが」
「……そう、分かった。つまり、急いだ方がいいってこと?」
「当然だ。まず中層へ行くエレベーターにナビゲートする」
レゾンに従い、ヴィオレは白い廊下を走り出した。
普段使用しているエレベーターの、ちょうど反対側へ向かう道筋だ。浅間の外に向かわない、ヒトとモノのための施設を使うことが、ヴィオレに「浅間の中にペストがいる」のを実感させる。
最後の角を曲がると、途端に視界が開けた。貨物も頻繁に通る道は他より広く、研究所の出入り口と直線で繋がれている。レゾンが操作しているのか、すでに横開きの扉は全開でヴィオレを待ち構えていた。