第四章

 怒りの熱が、一周まわって冷え切っている。ここまで訳の分からない言動を続けられたのだから、無理もないことだった。

 だというのに、御堂は懐から無線機を取り出した。浅間の外に出る──ペストと戦うハイジアへ支給される、戦うための道具だ。

「できれば、そうしてほしい」

 一転。冷たさは熱さへ変化した。

 厚かましくも甘い口を叩いた御堂に、ヴィオレは初めて血が沸騰するような錯覚を覚える。足を踏み出すと同時に念動力で地面を弾き、距離を詰めた勢いそのまま白衣の胸元を掴んでさらに前進。鉄の扉の向こうにある階段の手すりへ御堂の背中を叩きつけた。

「──っ!」

「本気で言ってるの?」

 さらに腕を伸ばし、御堂の上体を手すりの外へ押し出す。もしヴィオレが手を離したら、重さに引きずられて頭から落下するだろう。たったワンフロア分の高さとはいえ、死ぬ確率の方が高い。

「私のことだけじゃない。他の命も蔑ろにしてるのに、そんなことが言えるの?」

 背中を強打して一瞬呼吸の止まった御堂に対し、ヴィオレはさらに言いつのる。

「念動力のペストが殺した四人のハイジア、知ってる?」

 返事は苦しげな咳が二回。

「一番年上がベール。みんなのことを気遣って、細かいことにすぐ気づける優しい人」

 ヴィオレが一瞥すると、驚いたことに御堂はまだ左手に無線機を持ったままだった。

「次がジョーヌ。言いたいことをすぐ言っちゃうから、科学者から嫌われてた」

 喘鳴を繰り返していた御堂の目が、ヴィオレへ向けられる。

「三番目がアンディゴ。すごい怖がりで、ちょっと脅かされただけですぐ泣いちゃう子」