第四章

 鉄製の重い扉を前に、ヴィオレは荒い呼吸を繰り返していた。

 レゾンのいる最下層から、研究所のエリアまで。さらに研究所の五フロアを駆けあがり、ようやく着いたのが扉の前だった。

 ハイジアの行動可能範囲には限りがある。

 許可がなければ研究所から出ることはできない。浅間の下層にある施設でもかなり広い部類ではあるものの、そこまで移動を制限されているのはハイジアの他は犯罪者くらいだ。

 唯一浅間の外へ出ることができるくせに、浅間の中では自由を制限される。

 じゃあ浅間から逃げればいいじゃないか。と考えたハイジアは、これまでに何人かいるらしい。彼女たちがペストの支配する世界で生き延びることができたのか、当然ながら知るものはいない。

 そしてヴィオレは、浅間を出る覚悟など決められるはずもなかった。右足首の鈍い痛みが、その正しさを証明している。浅間の外で生きていくには、ヴィオレはあまりに弱すぎる。

 ドアノブをひねり、肩で扉を押すと、青い空が見える。

 青い空のように見せた、天井だ。

 浅間は、地下都市としてはかなり大きい部類に入る。それでも視覚的な閉塞感とは恐ろしいもので、頭上にある天井や町の外にある壁を意識できるようになってしまうと、人間は少なからずストレスを抱えることになる。

 だから、天井や壁は青く、さらに壁の内側には木々を植えて森林を作り、遠景があるように見せるのだ──と、ヴィオレはかつてレゾンから聞かされた。

 ずきり、と胸の奥が痛む。