第二章
その点では、御堂とレゾンには似たところがあるのかもしれない。
「みんなが帰ってきたら、戻ってくるよ」
「あぁ、いってらっしゃい」
御堂の声を背に、ヴィオレは研究室を後にした。
廊下に出て扉を閉めると同時にパーカーのフードをかぶり、視線を落として足を速める。その程度でヴィオレがハイジアであることは隠せないが、目線を合わせる必要がなくなるだけでも充分な効果がある。
向けられるのは、大抵が軽蔑に似た同情の視線だ。伴って吐き出されるため息を消す術は持っていないから、白衣や黒衣の誰かとすれ違うたびに大げさな吐息の音だけがフード越しに聞こえてくる。
ハイジアに向けられる、生物としての苦手意識とはまた違う。ハイジアを管理する、あるいは運用する人間としての、期待が外れた軽蔑が、彼らの中にはある。
ヴィオレは、ハイジアとしての失敗作である。
実戦に投入可能という意味では、一定の成功は収めている。ただし、それは他のハイジアとは違う運用方法で、限られた状況下でのみ、という注釈がついた上での話だ。
本来、ハイジアがペストに触れられるほど接近する必要はない。今日ヴィオレが戦ったネズミ型ペストは炎を操っていたが、その細胞を加工・培養して少女に埋めこめば「炎を操るハイジア」が出来あがる。
有効射程に個体差はあるものの、ヴィオレのように「体表から五センチ」などといったふざけた短さなど他には存在しない。炎は体にまとって戦うものではなく、遠方へ向けて放射して使うものだ。