第二章

 そう考えてみれば、御堂以外の科学者がハイジアを避けることにも納得がいく。自分で培養したものであっても、天敵の細胞を体に埋めこまれた者へ拒絶反応を示すのは当然のことだからだ。

「みんなが帰ってくるまで、ここで待つか?」

 御堂が椅子から立ちあがりながら問う。彼の言う「みんな」は、浅間近辺で群れを作ろうとしていたハエ型のペストを掃討しに行ったハイジアたちのことだ。

 山頂付近にある浅間の塔から少し下ったところへ行ったはずで、そろそろ帰投予定時間になるころだった。

 とはいえ、予定は三十分から一時間は前後することを考慮しなければならない。地下と地上の間では通信機器も充分な働きができないからだ。浅間直上にいたヴィオレでさえ地下との通信でノイズを聞き続けていたのだから、さらに距離をとれば通信状況がどれだけ劣悪になるかは容易に想像できる。

 ヴィオレは数瞬迷ってから、部屋の出口を見た。

「ん……ちょっと行きたいところがあるから」

「レゾン、かな」

 問いかけるような言葉だが、御堂は半ば確信している口調で言った。残念そうに、ため息が混じる。

「苦手?」

「いや……そういうわけじゃない。ヴィオレにとって親みたいなものだからね」

 言って、御堂は苦笑に似た複雑な表情を浮かべる。

 ヴィオレの知る限り、御堂は嘘が下手な男だ。正直と言うべきなのかもしれない。他人に、というよりは、自分に。

 だから、ヴィオレは御堂にレゾンの認識を改めてもらおうとは思わなかった。確かに彼の言う通りレゾンは親のようなものだが、誰かの評価など気にするような性質の持ち主でもないからだ。