終章 始まりは終わりと共に
ところでこの幼女、こちらの事は覚えているのだろうかとイアンはふと思う。
ファーストコンタクトは幼女に意識があるのかどうかも分からない状態だった。魔力切れという精霊的な問題で死の淵に立っていた彼女だから、分からないとしても無理はないが。
また、イアン自身が子供の扱いをあまり心得ていないから、込み入った話はあまりしたくないと言うのが正直なところだった。
しかし、聞いておかなければならない事がある。
今日はたまたま出くわしただけだが、リッキーと顔は合わせたくないものの実は頃合いを見て幼女の様子を見に行くつもりでいた。
もっとも、事の次いでではあるが。
イアンは、地図を折りたたみながら幼女に向けて言う。
「女神は、いるんだな」
「?」
小首を傾げてクエスチョンマークを出された。
その反応を鑑みるに、本人に自覚はないらしい。
ともすれば、何故自分が今回襲われる事になったのか。その真相は差し当たって控えなければならない。
知る事で何かが変わるかもしれないし、変わらないのかもしれない。
それは分からないが、もしも言うべき時があるというのなら、今は多分その時ではない。
自覚のない者に言っても意味がないからだ。
だから、今回の騒動の犠牲者がどれだけいるのかという話も余談にしかならない。
だから余談になるが、攫われた街の子供は全員心臓を抉り出され絶命していた。街路児も含めて全員である。あと中枢街の役員一人だけ、火傷により、意識不明の重体という者もいた。
数十人の命が今回の騒動で犠牲となっている。
今は自覚がないかもしれない。しかし、幼女はいずれ知る事になる。
自分の存在がどれだけ強大で、また、どれだけ人の心を惑わすのかという事を。
何にせよ、運命の女神の伝承は実在した。
運命の女神とは、同時に戦いの女神でもある。