第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
リッキーは羽根の弾切れを願っていたが、すぐさまその考えをぐしゃぐしゃに潰して投げ捨てる。
弾切れなど無いと考えた方がいい。
それはそうだ。あの羽根を、翼を組成しているのは間違いなく魔力。だから言ってしまえば魔力が底を尽けばいずれは切れてしまうのだが、羽根に割いている魔力の量が恐らく極限まで抑えられている。
根拠としては爆発の規模。
昼間の骸骨、そして裏通りを吹き飛ばした火力と羽根のそれを比べてみれば一目瞭然。単発火力に魔力消費を当てるより、羽根による物量重視の戦い方に切り替えた、と言ってもいい。
ただ、女神の象徴である翼の力が、女神本体から切り出したとされる力がこの程度の性能で留まっているのはおかしい。羽根の照準も正確ではない。違和感がある。
リッキーの心臓から溢れる魔力を捧げる事によってようやく完全な力を得るらしいが、それでも不完全ながらも運命を司る女神の力。もっと常軌を逸したような膂力をまき散らしそうな気もするが。とリッキーは駆け抜けながら上手く回らない頭で思考する。
ちらりと首だけ動かして後方を確認してみれば、突き出していた両腕を下げ、背中の魔法陣から伸びた翼で宙に浮き始めているカソックの男の姿が見える。
翼の羽ばたきはない。重力に反発しているかのように、ゆっくりと上昇を続けている。
上昇を続けながら男は、
「なるほど。やはりそう言う事か。象徴の切り替え。さっさと起きろ──」
右腕を空に向かって掲げ、言葉を吐き出す。
「──骸骨共(ガラクタ共)!!」
直後、躱しに躱して躱しきった爆撃羽根が、躱すことで地面に突き刺さった羽根が、霧になって骸骨に変貌を遂げた。
まるで蛆虫のように湧いて出てくる骸骨は数秒も待たずに数百数千の白い軍勢となり、カラカラと珍妙な笑いを共鳴させる。そしてそれら全てがぐるりと一斉に標的に照準を合わせる。
リッキーはそれを見て、駆けていた足を思わず止めた。
白の軍勢はリッキーの方を向いてはいない。