第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
5
「五十」
カソックの男が呟いて前方に両手をかざし五指を開くと、舞い散る褐色の羽根がリッキー目掛け、一斉に飛来した。まるで数百の弓矢を一気に撃ち放ったような掃射が到来する中、リッキーは唯一逃げ場の残っている後方に振り返って駆けた。視界がブレて平衡感覚が上手く掴めない。体が軋んで悲鳴を上げる。そんなことなど一切ねじ伏せて脚を踏み出す。
ドドドドドドド!! ──と羽毛で出来たそれとは考えられないほど凄まじい音を立てながら地面に羽根が着弾する。しかも直後に小規模な爆発を巻き起こしながら。
恐らく今カソックの男は、骸骨が持つ爆発の力と女神の力の象徴である翼の力を扱う事ができる。翼を構成するのは羽根。それをばら撒いて操作することができるとすれば爆発の能力と併用することによって散弾のように繰り出すことが出来る。
つまりは、
──最悪にくそったれな組み合わせじゃねえか……!
リッキーは声を出す力すら惜しんで、胸の中で悪態をついて、続けざまに飛んでくる爆撃羽根から逃げる。
着弾。
爆発。
連鎖。
「次は、百だ!」
カソックの男の声に応じ、またしても羽根が宙を舞い、リッキー目掛けて風を切る。そして再びの轟音。捲し立てるように連鎖する爆発はきっちり百のそれを奏で、
「装填、二百!」
掃射。
空けるまもなく二倍の羽根が爆発を巻き起こし、零秒で装填。
爆発。装填、掃射、爆発。装填、掃射、爆発。
それに合わせ、カソックの男の指が歪に動いて羽根を操作する。
装填の数は瞬く間に膨れ上がり、三百、四百、五百、六百────千に達する。
「─────────っ!!」
ドドドドドドドドドド!! ──と怒涛の如く爆撃が訪れた。
リッキーは心の中で死ぬほど叫びながら、何かの悪い冗談かと思ってしまうほど冗談めいた数の羽根をかわしながら、雨の荒野を疾走する。
カソックの男が爆発の力を連続して使用できている事から、裏通りの方は結末は如何にしても事態が収束していることが予測できる。