第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
とは言っても先ほどまでの大きさには戻らない。その大きさは地面に描かれていた時ほど巨大ではなく、あくまで背中を覆う程度のものだ。
そして、魔法陣から猛禽類の勇猛なそれを思わせる褐色の大翼が生え、生え出で、羽根をまき散らしながら風切を広げた。
邪悪な気配は一切感じ取ることができず、むしろ神々しささえ窺えてしまう翼は、幼女が携えていた物と酷似している。というよりも、色こそ違えど同じ物のように感じ取れてしまう。
「これが何なのか。君には分かるだろう?」
翼。
女神と呼ばれる者の大翼。
それが女神たるティアの背中に無く、カソックの男の背中にあるという事を考えると一つの考えに至ってしまう。
──精霊契約を結んだ、のか……!?
カソックの男がヘルと結んでいる契約に当てはめると、同じような事が契約上できてしまう。
しかしカソックの男はそれを否定する。
「精霊契約という手もあったのだが、残念ながら私の魔力では足らない。ヘルの分で精いっぱいだ」
ならば、カソックの男の背中にある翼は女神の翼ではないのか。
「リッキー君。力というものには必ず根源があるだろう。火を起こすには熱が必要であるように。君の腕力が歪んだ魔法陣から生み出されているように」
結果に至るには原因が要る。
「であるなら、女神の力も同じだ。根源がある。それさえ切り取れてしまえば、力を得るのは容易い。仮に契約できたとしても一つの力を使うために二つの意志があるというのは邪魔以外の何物でもない」
つまりカソックの男は、元よりティアを使って何かをしようという考えは持ち合わせてはいなかった。ティアが持つ女神の力の根源──カソックの男が言うところの力の象徴を獲得できさえすれば目的を果たせるのだった。
「もう、気付いただろう。私はこのガキを使ってどうこうしようと言う訳ではないのだよ」