第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

「おい。それ」

 リッキーはイアンを案じて近づこうとしたが手を突き出されて拒否された。

「ただの反動だ。放っておけばどうにかなる」

「反動?」

 あの大爆発を受けていながらイアンが負っている外傷はリッキーと同様に掠り傷程度の小さなものだけで吐血にまで及ぶような傷痕は見当たらない。だとすれば体の内面。内臓側にダメージを受けてしまったのだと思われる。

 しかし、あの大爆発を受けていながら二人揃って深手を負っていないというのは、まずもって運が良いどころの話ではない。そもそも有り得ない事だ。それこそ、誰かが人為的に爆発の向きや規模を変えて直撃を免れなければ成し得ない。

 もしもそんな事が出来るとして、生還が可能であるならば──

「反動って……お前、まさか」

「爆発の対象をずらした」

 と、イアンは血混じりの痰を吐き捨てる。

「呆け面がお似合いだな」

 爆発の対象をずらすなど、そんなこと一体どうやって──とリッキーは問い詰めようしたが言葉を飲み込んだ。

 言及したところでイアンが明確な答えをすんなり返してくれる訳がないからだ。

「ただ勘違いするな。お前を助けた訳じゃない」

 この男がそう簡単に傷を負うわけがない。

 イアンが飛び抜けた破壊力を持つリッキーの拳を正面から捌いて無傷で生還できるのは、衝撃をいなす技術を扱えるからだ。

 というか、この闇医者であれば何でもできてしまいそうだから説明を求めるだけ野暮。という感じだった。

 どんなトリックを使ったかというのは一切分からないが、兎に角、今回イアンは内臓側に負荷を持つという反動を負うことで爆発の対象をずらす技術を扱ったらしかった。

 もっとも、

「この状況では助かったとは言い難いがな」

 言って、イアンは立ち上がる。

 僅かな時間で回復した体の感覚を使えるだけ使い、体を軋ませながら。