第二章 危殆はトラブルと共に

「……なんでもない、さっさと行け」

 そして現在。

 目的地である薬屋は大通りから分岐する中枢街方面の道に入ってすぐの所にあった。

 特徴的というか、浮いているというか、石造りの家の並びの中に凄まじく古びた木造家屋が一軒だけ建っている。しかも植物の蔓が家屋のそこかしこに巻き付いているから目立つといったらない。

 それこそ邪悪な魔女でも出てきそうな佇まいであるその家屋の軒先にはかつて屋号を表記していたであろう古びたプレートが。

 内心、胡散臭い建物だと思いつつリッキーは扉に手をかけた。

 蝶番は錆び、扉自体も朽ちてきているのだろう。押し開くと軋んだ音が響く。

 リッキーは屋内に入って思った。

 ──あれ? 意外に普通だな。

 薬草や薬品が種類別に振り分けられた木製棚が壁際に並び、部屋の中央にある円形テーブルには大小五つのバスケットが置かれている。その中には採れたてと思われる花や木の実がぎっしり詰められていて、さながらビュッフェを思わせる彩である。

 更に視線を巡らせれば、赤青緑に光る水晶のような物がいかにも高価そうな透明な壺の中に詰め込まれているのが見えた。足元の気張りの床に至っては何度も何度も丁寧に磨かれているようで、柔らかい光沢を放っている。

 外観と内観の差から、逆に魔女が居てもおかしくはないとリッキーは思う。それにここはイアンの知り合いの宅だ。おかしな輩が出てきてもなんら不思議ではないし、おかしな輩が出てこない確率の方が低そうである。

 そんな感じで店内を物色していると、駄菓子屋のように商品が陳列されたカウンターの奥に居る人物と目が合った。