第二章 危殆はトラブルと共に

「……じゃあ……俺はどうすればいい」

「?」

「財産も無え。人に自慢できる特技も無え。何にも無え。そんな奴に一体何が出来るってんだよ!!」

 瞬間、イアンの拳がリッキーの顔面を捉えて吹き飛ばした。

 同時に雨が一層勢いを増し始めた。

 屋根を叩く音が五月蝿い。加えて、時折吹き抜ける風によって横殴りと化したそれが、割らんばかりの勢いで窓を叩いた。それはまるでリッキーの言葉を掻き消すように。雨音で塗りつぶすように。

 何も無かった。

 本当に、何も無かった。

 手元にあるのは、破壊しか生み出すことのできない腕力だけ。

 しかしそれでも、そんなリッキーでさえも、出来る事があるとイアンはのたまる。不愛想に、不躾に。

 床に座り込んだリッキーを見下ろしてイアンは言う。

「自分を賭けろ」

 イアンの瞳に揺るぎはなかった。

「この子供を助けられるのは、お前だけなんだ」

 それでもリッキーは、しかし、とたじろぐ。

 自分に何ができるというのか。自分を賭けるとは、どういうことなのか。

「とは言っても、お前には時間が必要らしい……あまり気は進まんが、短時間ながら一時的な救済方法を授けてやる」

「……きゅう、さい?」

「ああ。ただ、もって一時間。最悪五分という悪魔の賭けだ。しかしどの道、お前の意志が固まらなければ本末転倒。ここから先は一分一秒でも無駄にするな。稼いだ時間内に腹を括れよ」 

 例えその結末が共倒れになろうとも、骨くらいは拾ってやろうとイアンは言った。それはもう、今までに見た事のない凄惨な笑みで。