第二章 危殆はトラブルと共に
そんな精神論を果たしてイアンが言葉に込めているかというのは真相定かではないが。
「お前は言ったな、この子供を助けて欲しいと」
イアンの言葉にリッキーは応答しない。
「救いたいと思う気持ちと、救えるかどうかは全く別の問題だ。例えばお前が殺したという精霊。そいつを救える医者が仮に世界に居たとして、お前は、その医者がその場に居なかった事を悔い、恨んだのか? 違うだろう? お前は単純に自分の無力さを呪った。それは、お前の言動を鑑みればすぐに分かる。そしてお前はこう思っている」
イアンは幼女の触診を続けながら、
「自分は誰も救えない、と」
冷淡に、冷徹に、冷酷に、述べる。
「だとすれば、お前は間違っている」
イアンはそのままリッキーに問いかける。
「聞くが、この子供は自分からお前の元へ来たのか? それともお前が拾ったのか?」
イアンが言うに、精霊とは主たる契約者、若しくは契約者に成り得る人間となんらかの因果関係を持ち合わせており、共鳴し合うのだという。
たとえそれが何千キロ、何万キロと離れた場所にいようとも、磁石のように引き合うのだという。
だから、精霊の方から出向いてきているとすれば、
「お前は選ばれたのだ」
逃れたいか? この責務から。とイアンは捲し立てる。
「この子供を見殺しにするような糞野郎に成り下がってまで生き延びたいと願うのか? だとすれば、私は手を切ろう。自分は死にたくないが子供は救いたいなんて餓鬼みたいな事を抜かし続ける奴が誰かを助けたいだと? 同じ土俵にも上がっていないような奴が息巻くなよ。反吐が出る」