第一章 トラブルは横暴幼女と共に
ティアの白翼はゆっくりと広げながら辺り一帯に極小の羽根をばら撒いた。
朦朧とする意識の中、虚ろな瞳を辛うじて開きつつ、衰弱した幼女は呟く。誰にも聞こえない声で。誰にも理解できない言葉で。
「──P■urqu■※ est-ce que v■us c■mbattez」
羽根が舞う景色の中、疾走するリッキーの後姿を半開きの瞳で見つめていた幼女は、瞼を──翼を静かに閉じた──
一際大きな爆発音が中央広場に響き渡る。
衝突の刹那、横にも後ろにも避けず前に飛び込んで拳をかわしたリッキーは勢いそのままに骸骨の股下を駆け抜け、五メートル程の距離を置いて立ち止まった。
短く息を吐いて視線を上げれば、体勢を立て直し、すぐさま殴打の構えを取る巨大骸骨の姿が目に入るが、そんな事などどうでもいい。そんな事などもう関係ない。
この骸骨は無敵でもなければ、何でもかんでも物体をすり抜けてしまう訳でもない。
巨大骸骨が起爆できる力を持っているのは腕だけ。つまり、先の骸骨たちと変わらないのだった。
笑う。嗤う。
黙って大勢で詰めていればそのまま終わっていたかもしれないのに、わざわざ自分で的をデカくしやがったとリッキーは嗤う。
轟! とモーション無しに振り抜かれる骸骨の拳をリッキーは掻い潜って避け、そのまま巨大骸骨の足元へ飛び込んだ。
そして左足で急激に減速。駆け抜ける事でついた運動エネルギーが全て左足の親指に乗る。
その運動エネルギーを留めるは強靭な下腿三頭筋。そこを伝って駆け上がってくる力の余波を大腿四頭筋が受け止めて大砲の砲台が準備を終える。
次いで上腕三頭筋が歪な音を立てながら隆起し、拳を握りしめると同時、腕全体に青筋が浮かぶ。