第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 リッキーは括目する。

 横に裂けた民家の一角を見れば、先に自分が破壊した街の傷跡など虫食い穴のように小さく見えた。

 巨大ガイコツがギギギと関節を軋ませながら再び左拳を構える。天高くかざした白い拳に地面から沸き起こる黒が再び収束を始め、

「な、っ──」

 今度こそ、リッキー目掛けて振り下ろされた。

 爆発音。そして振動。

 横っ飛びでギリギリかわしたリッキーは骸骨を見上げ、ティアを庇いつつ間髪入れずに繰り出される右の骨塊を続けて避ける。

 爆発音。

 振動待たずして左の拳がまたもや迫り、着弾と同時、右が駆ける。

 右左右左右左右左右左右左右。

「――お、ぉおおおおおお!!!?」

 雨のように降り注ぐ弾幕をリッキーは避ける、避ける、避ける。避けて、避けて、駆ける。

 何が悲しくてこんなに避けなければならないのか。回避を続けるリッキーの頭を支配するのは、もはや疑問だけだった。ただ、素直に一発貰う道理もなかった。

 戦う力なら有る。

 例え相手が四階建家屋級に巨大な者であったとしても拳さえ通用すれば勝つ自信はあるし、骨組み如きに遅れを取るつもりも毛頭ないのだが、得体の知れない敵を相手取る時には、まず相手の特徴や特性を、

「あ、」

 リッキーは気付いた。

 避けて、駆けて、跳んで、ティアを安全な瓦礫の影に寝かせながら気付いた。



 リッキーが再び巨大骸骨との闘争に身を投じた直後、横たわるティアの背中がバチン! と大きな音を立てて弾けた。

 それと共に、あろうことかティアの背中から小さな翼が生えた。