第一章 虚無に満ちる人造秩序

 すると男が苦笑。どうやら、口頭でも施工に関する説明があったらしいのだが、早姫はどうせ何を聞いても付けるものは付けるんだからさっさとやろうと作業の開始を促した。そして深々と頭を下げ、続けて一言。

「よろしくお願いします」

 つられるように男も一礼。

「あ、いやこちらこそ。この佐倉義景(さくらよしかげ)、全身全霊をもって君の脚を作らせていただきます」

 程なくして機工義肢の施工手術が始まった。

 施工に要した時間は約三時間ほど。

 義肢の型取りから神経系の接続まで作業は滞りなく進み、何の問題もなく工程の全てを終えたのだった。

 それから早姫が目を覚ましたのは術後一時間が経ってからだった。

 配管だらけの天井の元、身体に残る全身麻酔の余韻に浸りながらも左脚に確かに感じる新たな感覚。カバーレットを剥がすと、鈍色の鉄塊が左の虚空を埋めていた。

 早姫はそろりと触れてみる。

 冷たく、重く、鈍い。

 しかし、触れた左手に感覚はあるのに、左脚は触れられたという認識を神経に乗せて脳髄に伝達する事はなかった。それでも足首を動かそうとすればその通り鉄の左脚は動いたし、指を動かそうとすれば思い通りに動いた。

 動作に関する神経だけが接続されているらしい。

 床に脚を下ろして二、三度床を踏みつけると接触感覚は自己の物である膝の辺りから走ってきているのが分かった。

 そんな感じで鉄脚の具合を確かめていると工房に繋がる扉が開き、義景が入ってきた。