第一章 虚無に満ちる人造秩序
1
ちりちりと甲高い金切音に耳をつんざかれ、意識がにわかに覚醒する。
重い瞼を持ち上げて視界を確立させれば、配管だらけの天井が見えた。
──…………ここは?
ゆっくりと身体を起こして周囲を見渡す。
壁は打ちっぱなしのコンクリート。テーブルは電線ドラムで、革張りのソファーは年季が入っているというかそれを通り越して色が褪せている。
見知らぬ部屋。
いま自分が入っているベッドだって例外なく見知らぬ物だ。部屋のあちこちに観賞用のミニサボテンを飾る趣味もない。
──わたしは……。
今どこにいる。
ここに至るまでの記憶を辿ろうとするが、頭が上手く回らない。
そうやって脳みそにかかるもやを感じながらセーラー服についた皺に指を這わせていると、ブリキ張りの扉が開いた。
軋みを上げて開け放たれた入口から、ダンボールで両手を塞いだ作業着姿の男が入室する。
男は部屋に入るなり、ベッドで佇む少女の顔を見て笑った。
「良かった、目が覚めたんだね!」
と言われても、半覚醒状態の脳みそでは状況を理解できない。目の前にいる男が誰なのかも少女には分からない。
「あれ? 昨日のこと覚えてない? 切裂早姫ちゃん」
「昨日……?」
ぼんやりした声でようやく男の言葉に応答する。
しかしそれも一瞬。少女もとい早姫は、即座にカバーレットを引き寄せて警戒の表情を露わにする。
なぜこの男は自分の名前を知っているのか。
なぜ見知らぬ部屋に連れ込まれているのか。
何か、されたのではないだろうか。