〇〇九

「くぁ……金の次は、暴力かよ……ダメンズじゃないっすか監督ぅ」

「……仕方がなかった」

「仕方が、ない?」

「グランツハウスの社長は、ジョーンズ工務店を潰す気だった」

 グランツハウスの社長はメイソン・ジョーンズへ金を渡し、外壁補強の志願を取り下げるよう迫ったのだと言う。

 しかしメイソン・ジョーンズは断った。

 それを皮切りにグランツハウスはジョーンズ工務店が有する作業員の引き抜きを始めた。

 バーミッドグロウ塗装、ホームタイム・インクとは旧知の仲で助け合って経営を続けていたのだが、グランツハウスから金を渡され、ジョーンズ工務店との縁を切ったらしい。

「そいつら全員山羊に変えてやったよ」

 それならば他に山羊にされてしまった人たちは、そんな私怨とは関係ないのではないか。

「確かに関係ない。だが、関係ないからこそ」

 金のネタに出来た。とメイソン・ジョーンズは言う。

 私怨が終わればあとは、稼ぐため。会社を潤すため。

 そんなことがあって良いわけがない。

 ロニは立ち上がりながら思う。

 人間関係とは面倒なものだ。裏を読もうとし、表を作って腹を探り合う。利益を求め、余計なものを捨てる。条件によっては差し出す。それがたとえ今まで大切にしていたものだったとしても。

 確かに、大切なのは自分だ。それは間違いない。しかし、誰かがいなければ今の自分は居ないわけで、自分が居なければば周りがないのだ。

 他人は一であり、一は自分である。

 ともすれば、他を捨ててしまった人間は自分を捨てたも同然だ。

 ロニは言う。