〇〇四
壁塗りの作業は終わってもシチメンドウの業務は続く。
現場から帰還したシルベスタとロニは、長たらしい道程を経て部署に戻っていた。
「ただいま戻りました、係長」
「ちょ、退けて」
扉のところで敬礼するシルベスタを退けてロニはズカズカと部屋に入る。直後、シルベスタのチョップがロニの脳天を直撃。
頭に響く鈍痛に目眩を覚えながら応接コーナーのソファーへ倒れ込んだロニは、振り返ってシルベスタを睨みつけた。
「パワハラ!」
「すぐに報告書をまとめます」
「無視かよ!」
シルベスタは、係長席から聞こえてくる「おつかれさマフィン」という声に軽く会釈して席につく。それに遅れてソファーから跳ね起きたロニが係長席まで駆け寄る。そしてふざけた敬礼をしながら一言。
「おつかれさマフィンです」
にっかり笑顔。
「ロニ・ヴァルフォア、ただいま戻りやした」
「おつかれーおつかれーおつカレーパン」
「おっ。新作ですねぇ。今度使わせてください」
二人のやり取りを見てシルベスタは、ロニの態度が自分の時とは違ってフレンドリーなことに違和感を覚える。
ちなみに係長の階級は軍曹。
序列で言えばシルベスタの一つ上で、ロニから見れば二つ上だ。
──あの女……長いものには巻かれるタイプか?
疑問を抱くも声に出したら「興味ある? 気になる?」などと増長しそうなので胸中に押し留める。
「いやしかしロニ君、ご苦労だったね。朝は聞き込み、昼は壁塗り」
「なんのなんの。ヤングですから」
「ナウいねー若者だねー」