〇〇三
休憩時間。
「シチメンドウ所属、ロニ・ヴァルフォアでござんす。よろしクロワッサン」
手首の曲がった気の抜けた敬礼。
余計な会釈の特典まで付いているが、肩辺りで切り揃えた黒のワンレングスボブと大きな瞳からは、ふざけた振る舞いとは正反対に凛とした印象を受ける。
加えて、首から下げた金の懐中時計が軍部の人間たることを証明している。
ロニの敬礼に苛つきを覚えながらシルベスタは敬礼を返す。
「シルベスタ・ガフだ」
「ああ、あなたが。思ったより年くってますな」
まじまじとシルベスタの顔を観察してロニは失礼な言葉をこぼす。
シルベスタとしては別に外見など気にしたことはないし、実際四十一歳のいいオッサンなので老けて見えてもそんなことはどうだっていい。
しかしながら、軍部とは縦社会である。
「お前、階級は?」
シルベスタの問いにロニはふざけた敬礼をのまま、
「一等兵でありんす」
「俺は伍長だ。舌をしまえ」
「はあん、上官殿。命令ですか職権濫用ですか」
「違う。職権準用だ」
言葉の応酬をしていると、現場監督が二人分の水筒を持って駆け寄ってきた。
竹製の古めかしいそれは、街の珈琲問屋が作業者用に卸している物である。
その問屋は現場まで配達のサービスもしているらしい。リヤカーを引く店員の後ろ姿が近くにあった。
「この水は最高だぜ。二人とも飲みな」
現場監督に勧められるがまま、シルベスタとロニは竹筒を受け取り、水を口に流し込む。
「なにが最高って、山から染み出る綺麗な水をそのままボトリングしてるんだから新鮮なワケよ」