一、世界はそれを成り行きという

「シルベスタ・ガフ? あのブロンズサイ社の? お会いできて光栄です」

「会社はもう潰れたよ。今はフリーの整備士やってるだけですわ」

 車両の側面に空いた大穴から身を乗り出し、ブリキとハンマーを掴みながらシルバは言う。

「で、そういうアンタは政府(おかみ)の人間か。それ、見たことあるぜ」

 ハンマーで指した先にはシルクハット。そのつばとクラウンのつけ根にあるリボンのところには直角三角形をずらして重ねた形のバッジが付いている。

「よく御存じで」

「てことは、テロリスト共の目的はアンタか。大変な目に合って可哀想だとは思うが、なにか起きた時に被る一般市民の迷惑くらい考えたって良かったんじゃないの?」

 ちょっと言い過ぎですよ。とロニがシルバを咎めるが、フリックは首を横に振った。

「ガフ殿のおっしゃる通りです。列車に乗ってしまった私には責任がある」

 列車の大破。

 運行の遅延。

 また、それに係る利益損害。

「もしもそれらが発生した場合、私、フリック・シーガルが責任の全てを負いましょう」

 それを聞いたロニは、なんだか複雑な気持ちになった。

 車両を壊したのは自分だし、怒りに身を任せていたとはいえ制圧にはもっと別の方法もあったはずだ。

 結果的に乗客と乗組員に死傷者がいなかったとしても、列車の遅延が発生する状況を作ってしまったのは事実。その負債額がいくらであろうとも、支払いを命じられた時は、責任をしっかりと取らなければならない。

「お気持ちは嬉しいんですが……列車を壊してしまったのは僕ですし……」