一、世界はそれを成り行きという
「鬼! シルバは鬼です!」
「うるせぇな、そこのブリキとハンマー取ってくれ」
「断ります! シルバがお金を貸してくれるまで、僕はブリキとハンマーはおろかネジ一本でさえも渡しません!」
「まだ請求がくるって決まってないけどね。っつうか、そういう時こそ公認魔術師のライセンスを使えばいいじゃないの。研究費用とか言ってさ」
「いや……そういう使い方は」
一瞬言い淀んで続けようとしたところでロニの言葉が止まる。横に灰色のフロックコートを着た男がいることに気付いたからだ。
フロックコートの男はシルクハットを外しながら気さくな笑みを浮かべて名乗る。
「ご機嫌麗しゅう。フリック・シーガルと申します。先ほどはありがとうございました。同乗者の勇敢な行動に感服しております」
なんだかいきなり褒められている。とロニは少し戸惑うが、それと同時に思い出す。
「あ、前部車両にいた……。僕はロニ。ロニ・バルフォアと言います」
紳士的な立ち振る舞いにつられ、立ち上がって会釈するとフリックがにっこり笑った。
年齢四十代後半といったところだろうか。
うっすら見える目じりの皺と一部だけ染めずに残してあるサイドの白髪が渋い。いかにも紳士といった風貌である。
「そちらの方は?」
フリックの視線の先は大穴から覗く車内。その中で作業をするシルバだ。
シルバは作業の手を一旦止めて軽く会釈する。
「どうも」
注釈でも入れるようにロニが言う。
「この人はシルベスタ・ガフです」
するとフリックが目を丸くした。