序章 青天霹靂/マ王降臨

「――疾れ、閃光!」

 怒号と同時、暗闇に染まった空間を一筋の光が貫く。

 雷撃にも似た青白いそれは数瞬待たずに轟音を撒き散らし、光の尾を辺りに跳ねさせながら炸裂した。

 遅れて烈風が通り過ぎる。

 爆発により立ち込めていた黒煙はまとめて吹き飛ばされ、視界は一瞬で回復。よく見れば、暗闇なりにも辺りの様子が見て取れる。

 まずは街灯。──点灯部位は破損していて稼働していない。

 次に街路。──アスファルト舗装ではなく、扇形で形成されたブロックが敷き詰められている。

 そして路上に転がった車と思しき鉄塊。──恐らく先の雷撃で爆発したのだろう。ぐしゃぐしゃにひしゃげていて、最早、原型を留めていない。辛うじて視認できる赤の塗装がかつてのボディーカラーだと思われる。

 これら全てが視覚できるのは空から差し込む微弱な月光のおかげであり、併せて大通りから漏れる人工灯の所為でもあった。

 そう、ここは街のド真ん中だった。

 地上四〇メートル級のビルが建ち並ぶオフィス街の一角。深夜にも関わらず、むしろ夜が進むにつれ人々の喧騒が入り乱れ、ざわめき合う大都市のド真ん中だった。

 そんな街の裏通り。

 上空に広がる摩天楼を見上げながら、右手に青白い光を躍らせながら、スーツの男は抑揚のない声でぽつりと呟いた。

「討伐完了、と」

 レザーの手袋の端を引っ張ってズレを直していると青白い光はパチンと音を立てて消えていった。

 ――今回もこの程度か……簡単なミッションだった。

 上げていた視線を地上に落とし、自分が刻んだ傷跡を見る。