第一章 日常茶飯/街の風景A
「この時間にあんたがいるなんて珍しいよね。何してんのー?」
自分の隣にいる人物は、姿形を見る限り幼児体型園児服姿のただの幼子。そんな子供がこんな深夜の街をうろついているのだ。気になってしまうのも無理はない。
名綱は少し前屈みの態勢で幼児の顔を覗き込む。
「うむ。じつは待ち合わせというやつでな」
「ふーん。あんたも待ち合わせなんてするんだー」
「あんたも、とはなんだ! 失敬だな名綱失敬だな!」
「はいはい、ごめんごめん」
「ふぬう。わっちだって待ち合わせくらいするんだから! そーゆー名綱は何なのだ! こんな真夜中に!」
ビシッと人差し指を名綱に向ける銀髪幼児。
そんな幼子を軽くあしらうように、名綱はさらりと返す。
「あたしもそうだよー。待ち合わせ、待ち合わせ」
「ほう?」
「もうかれこれ三〇分近く待たされてんの。ヘタレだからなぁ、あいつ。……何かトラブルに巻き込まれてなきゃいいんだけど。まあ、待つのは馴れてんだけどねー」
「ははぁなるほど、『かれし』というやつだな! 分かる分かるぞ」
「いや、そんな大層な肩書きの奴じゃあないんだけどさ」
帽子を被り直しながら名綱は続けて、
「電脳世界(こっち)に来たいって言うからさー」
また一組。
合流したカップルらしき男女が名綱と銀髪幼児の横を通り過ぎていった。
おもむろに後方を確認すると、人数は減ってはいるものの、また新たな顔ぶれが見て取れる。 ここ二、三〇分の間に入れ替わり立ち替わりを繰り返しているようだ。
「ふむ。しかし名綱を待たせるとは、なんて輩だその『かれし』は」