第一章 日常茶飯/街の風景A
女子をこんなにも待たせるなんて教育がなっていない。しかもこんな真夜中にひとりで。一人で。独りで。もし如何わしい商売をする輩に掴まってお店に出されるなりビデオを撮られたりといった状況に陥ってしまったとしたら、全ての責任は遅刻しているそいつにある。
――そうなった場合、さて、どんな罰を……そうならなかった場合でも罰は受けてもらうけどねフヒヒ。
眉をハの字に寄せながら不敵に笑う少女。
自分の身を案じるというよりは、遅刻者に対してどのような制裁を加えるかという事に関して楽しんでいるような表情だ。
少女は「どっこらしょー」と年寄りくさい声を漏らしながら広場の階段に腰を降ろした。そのままぼんやりと街の風景を眺めてみる。
正面。広場から見える方向には車と人が信号で操作されるスクランブル交差点があり、その奥ではファミレスやらカラオケ、コンビニ等々が道を狭めている。
右方。少し傾斜のある上り道には街路樹が点々と存在しており、進むにつれて建物の背が高くなっていくのが分かる。
続く左方にはインド料理店やイタリアン、中華といった食の専門店が道路脇を支配している。
腕を地面に突っ張らせ、仰け反る格好で眺めた後方には、広場を囲うテナントビルが五つ六つ、中心となる噴水に入り口を向ける形で建ち並んでいて、そのどれもが三〇メートル越えのビルだった。
新東京市。
電脳世界。
いわゆる仮想現実。
街並みも、人も、仰け反らせた頭に血が昇ってくる感覚までもが本物と遜色ない。