第一章 日常茶飯/街の風景
岩石衝突の刹那、落下運動をしていたナイフと貨幣は金属的な音を響かせながら地に落ち、数枚の紙幣は烈風に巻き上げられ夜闇の中を舞う。
その直後に壮絶な轟音が鳴り響いた事は、言うまでもない。
*
そんな事の一部始終を、猛は横たわったまま呆けた様子で見ていた。
瞳を覆っていた霞は消え去り、視界はクリア。
猛はこの時、初めて『己の目を疑う』という言葉の意味を知ったような気がした。
何せ、コンクリート舗装された頑強な地面に拳をぶち込み、あまつさえそれだけで十分異常なのにも関わらず、あろうことか目測直径三メートルは下らない巨大岩石を軽々しく持ち上げ、野球の球でも扱うかのように投擲する映像を脳髄に叩き込まれた直後なのだから。
猛は未だに体の硬直から解放されないでいた。
確かに、あの坊主頭の如何にも悪そうな男の恐怖からは既に解放された後だが、それをねじ伏せるほどの膂力を携えた金髪男が目の前にいるわけで。
――きょ、今日は厄日なのか?
新たな脅威に震える猛。
体の自由が利かない。
そうこうしている内に金髪男がクルリと振り返ってこちらに視線を向けた。
爛々と輝く青の瞳はあらゆるものを停止させるような眼光を放ち、ド派手な金髪がそれに拍車をかける。緑のジャケットとグレーのスラックスにはうっすら土埃が。
端から見れば知的でインテリな印象を受ける男の出で立ちも、この時ばかりは恐怖の代名詞でしかなかった。
カツーン、カツーン、と靴底を鳴らしながら歩み寄る金髪男。