第一章 日常茶飯/街の風景
出会いは約四年前。ナイロンパーカーの少年から金を巻き上げた手法と全く同じ方法で金髪男を引っ掛けたところ、それはもう取り返しのつかない事になったのを今でも鮮明に覚えている。
それと同時、牧原はここ新東京市において、絶対に手を出してはいけない存在というものをその身に刻んだ。
筈だったのだが――
「──HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!! 人にもの言える立場かだって? ああ下らねえなまったく!!」
先ほどまでの間延びしたものとは一変、怒気とも歓喜ともとれる感情めいたものを孕んだ大音量の声が真夜中の喧騒をぶち抜く。
「おいおいおいおいそうじゃねえだろ? そういう事じゃあねぇえんだよ!」
ギリ、ギリと見開かれる金髪男の双眸。
白目の部分は無数に血走り、赤に染まっていた。
牧原は男の唐突な変貌ぶりを目の当たりにし、背筋がどんどん冷えていくのが分かった。
「ああそうかなるほどなるほど脳みそワいてんのかHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAそうだそうに決まってる! 殴りてえ殴ります殴らせろとりあえず何かむかつくムカツクMUKATHUKU! 兎に角だ……お金は大事だよーって話DEATH! なので、」
加速していく男の言葉は支離滅裂で理解不能。もはや、羅列される言葉の上っ面を読み取る事すら不可能である。