第三章

 帰巣本能、とでもいうのだろうか。

 それとも、なんらかの暗示でもかけられているのだろうか。

 レビは、たとえ嫌っている相手がいるとしても、家に帰ってきてしまう。一人では生きていけない存在であることは分かっている。しかし、人間としての尊厳を奪われ続ける日々を受け止め続けるよりは、家を出ていってどことも分からない場所で死んでしまう方がよほどマシなのではないか、とも思う。

 生きたいのか、死にたいのか。

 従いたいのか、抗いたいのか。

 そんなことすら判断できないくらいに、レビの自我は摩耗しているのか。好転しない日々を、レビは変わりなく、変えようともせずに生き続けている。

 ──結局、〈十三番〉と名乗った男の言葉に答えることなく、逃げ帰ってしまった。

 ガタン、と音をたてて、木製の扉が壁に当たって跳ね返った。

 玄関に直接繋がっている部屋は、ものが少ない割にごちゃごちゃした印象を与える空間だった。衣服や食器、小物類が、整理されることもなくそこらに散らばっている。ろくに換気もされていない室内には、濁った空気が満ちているようだった。

 わずかに息苦しさを感じるレビだったが、窓を開け放そうとは思わない。むしろ、開いたままだった扉を閉めて風の通り道を狭めてしまう。

 レビの自発的な行動を、家の主である魔術師は嫌っている。象徴に意志があってしまっては、魔術師の意志を跳ね返してしまいかねないからだ。レビが自分の状況を変えようと行動するたびに、魔術師はその全てを潰してきた。抗う意思を摩耗させるために。

「どこに行っていたんだ、レビ」