第二章
しかし、分からない。魔術の象徴を模倣することによって生じる利益は何もないのだ。
魔術に必要なのは意志と象徴。どちらかが欠けてしまえば、意志はただのココロだし、象徴はただのモノでしかない。意志をもって象徴を選ばなければ最大限の成果はあがらないし、象徴をもって意志を補助しなければ思いは形にならない。
「まぁ、誰にでも使えるものとして、普遍的な意味を持つ象徴ばかりをかき集めていたようだから模倣も容易だっただろうがな。二二の役割に見合った象徴を刻んだカード──〈アルカナ〉。百年以上前、一人の魔術師によって確立された魔術だ。その八番に、【正義】という役割がある」
言ったあと、男はひとつため息をついた。
初めて人間らしさを見せつけられ、わずかに安堵するレビだったが、続けて放たれた男の言葉に再び緊張を強いられる。
「どうやらお前は魔術師として力を振るっているわけではないらしいな。魔術師に象徴を植えつけられている──いや、象徴として使われている、か?」
「────」
「模倣したからといって罰があるわけではないが、見たところ、お前は完全に被害者だ。人間が象徴として使われ続ければ、いずれ魔術師の意志で自我が埋め尽くされ、肉体だけを操られる存在になる。そんな死に方を望むか?」
「なにを──なにを言っているの?」
レビの問いに答えるように、男の懐から一枚のカードが飛び出してきた。
描かれているのは、漆黒の大地に立つ白亜の骸骨。手には男の背負っているものと同じ、大鎌が携えられている。
死神。男の第一印象は、そのまま彼の本質だった。