第一章

 頭部と胴体を狙った必殺の炎を前に、レビの脳は最大の処理能力で応じた。時間は引き延ばされ、火球が刻一刻と形を変える様すら視認する。照らされた路地の隅、放置された木箱の陰でネズミが走った。勝利を確信した男が口を歪めて笑む。

 急増する情報量を前に、体は硬直して動かなくなるはずなのだが──レビの体はからくり仕掛けの人形のように、あくまで機能的に行動した。

「正義に、反、する、罪、ぶか、き、火を、断て」

 レビの唇が言葉を読みあげる。

 伴って放たれる剣戟は神速。鋼鉄の刃が風を斬り、斬られた風が火球を切る。副次的に発生した強風が男たちを半歩ほど退かせ、隙のなかった体勢に乱れが生じる。

 彼らが姿勢を整えて視線を戻すまで数秒。その間に、レビの足は地面を蹴り、壁を蹴り、振り抜かれた剣が男の首を裂く。

 噴き出す鮮血。再度乱れる体勢。混乱する男ががむしゃらに放った火球をかいくぐり、レビは低い姿勢から胴体を逆袈裟に切り裂く。一呼吸の間に二人が斬殺され、生き残った一人は杖を構えたまま呆然とレビを見つめた。

 もはや、レビの中に感情や思想はない。

 ただひたすらに、正義に基づいて目の前に立ちふさがる障害を排除する。

 排除するのは誰にとっての障害か?

 基づくのは誰にとっての正義か?

 自らに問うことすらできず、レビは無抵抗な相手に容赦なく刃を突き刺した。

 三つの死体に囲まれて立ち尽くすレビに、背後から声がかけられる。

「よくやった、我が正義」

 慈しむような声に抱いた嫌悪感も、レビの中から一瞬で消え去った。