第一章

 意識が、混濁する。

 指の一本すら自らの意志で動かせない──というより、指を動かそうとする意志すら、レビの中には芽生えなかった。逃げるという意志すら生じず、怖いという感情すら薄れていく。

 ただ、視認する。

 レビがいるのは、埃とすすで汚れた裏路地だった。建物の隙間をぬうように走る道は狭く、両側にそびえ立つ木造の二階建て家屋がさらに閉塞感を強調する。

 昼間であっても暗い空間は、深夜、その暗さを存分に発揮した。満月が真上にあるため、まだ明るい方ではあるのだが、覚束ない明かりでは暗闇に閉ざされた場所が多い。

 さらに、目の前には道を塞ぐようにして三人の男が立っていた。深い赤を基調とした衣服をまとい、木製の杖を携える姿は山奥に住まう隠者のようだったが、眼光はそろって鋭くレビを射抜いている。

 視線に含まれているのは殺意。齢十二の少女を相手にして、三人の男が油断も躊躇もなく向ける感情ではない。

 両刃の剣をたずさえ、レビの右腕が持ちあげられる。切っ先を向けられた男たちが重心を低くして構えをとった。視線はさらに鋭くなり、レビの恐怖心が浮かんでは消える。

 恐怖し拒絶するレビ自身の心を裏切り、体は男たちとの闘争へと一歩を踏み出した。

 一直線に突進するレビに対し、男たちは杖を掲げて応じる。レビがもう一歩踏み込めば剣の間合いに入る、というところで、三本の杖の先端から人間の頭ほどの大きさの火球が飛び出した。

 闇に包まれていた裏路地が、突如発生した光源に照らしだされる。目くらましと殺害、両方の意図をもった火球を目前にしてレビに生まれた恐怖心は、やはり即座に消し去られる。