第一章
「ふーん。……BBA?」
「深い意味はない」
いつの間に持ってきたのか、竹ぼうきで店の前の道を掃除しながら誠は話題を変える。
「今日が何の日か知ってるか?」
「はい?」
言われて杏子は部屋の中に目を向ける。窓ガラス越しに見えるカレンダーの日付を指さしで数え、自分の記憶と照合。
「……二月十日? なんかあったっけ?」
「ついにボケたか。今日は十四日だろう十四日。言っておくが痴呆症の薬はないからな。ちびまるこちゃんのコマーシャルに倣って早急に病院へ行くことを勧める。頼むからトモゾーの二の舞にはなるなよ」
「トモゾーはまだボケてねえよ!」
というか、
「十四日……?」
雪消月。如月。二月。
二月十四日。
つまりは、バレンタインデーだった。
古くはローマ帝国時代に行われていた女神の祝日であり、当時生活が別々に区切られていた男女たちが翌日に催される豊穣祈願祭のためのパートナーを決める準備をする一日であったらしい。
現代においては国ごとで風習が変化し、独自の形式でバレンタインデーを祝うところも多い。
そんな中、日本では女性が男性に贈り物をするのが通例となっており、広義ではあるが同時に想いを相手に打ち明ける日としても認識されている。
「それがどうしたっての。あ、分かった。アンタ期待してんでしょー柄にもなく。早起きまでしちゃってさー」
したり顔で言ってやったが冷たい目で一瞥され、冷静に話を続展された。