二、アルヴィンス・ガザの導き

『お前の妹御は死んだのではない。囚われたのだ』

 背を預けた重厚な壁越しに、向こうの部屋にいるロビンの体温が上昇しているのが分かる。

 沈黙から温度が伝わってくる。

 ロビンに宿る力の核は言わずもがな『怒り』。猛り狂う灼熱の焔。

 対して。己れは──


   ◇・◇・◇


 主君を守る盾。時に最強の矛に転じる守護者。

 己れはその昔、騎士だった。

 放浪の傭兵であったところ、ある国の王女に拾われたのだ。

 美しく聡明で、強い人だった。闘いだけが取り柄の己れなど遠く及ばないほど。

 それはもちろん単純な腕力の話ではない。

 ──心が。

 『王とは貴族ではない。民を守る壁だ』

 お世辞にも豊かとはいえない国情の下、民に尽くし、民と共に生きた。

 隣国が仕掛けた戦闘行為に対しては平和的和解、つまり話し合いで応じた。だが、民に変事ありし時は感情を露わにし、自ら戦場に出向いた。

 己れに与えられた仕事は、そんな王女の護衛。

 王女は時に、国政の一端を己れに任せてくる事もあった。なにやら世界を巡ってきた己れの知識だか頭脳を高く買ってくれていたらしい。

 そのせいもあってか、己れは騎士でありながら賢者と呼ばれることもあった。独り旅を続けていた己れの周りにできる人だかり。

 なんだか、こそばゆい感情を抱いた事を覚えている。

 己れには故郷がない。

 正確に言えば、幼き頃に捨てられたので故郷を知らない。

 そのことを話すと周囲は決まって「親に対して恨みは、寂しさは、憤りは」と問うてくるのだが、己れは肉親に対して感情を抱いたことがない。全くない。皆無といってもいい。

 接した事のない人間に対し、抱く感情などなかろう。と言うと冷徹な奴だと思われるだろうが。

 だが、実際そうなのだ。

 己れには家族がない。故郷がない。