毎日戦争

 『午後4時から和牛100g2500円のところをなんと500円!500円での販売です! お一人様お一つ限り! 先着50名様限り! 本日限りのお得な商品となっております!!』

 この店には近所の猛者(主婦)が集まっている。目をぎらつかせ午後4時になるのを今か今かと待ち構えている。

 ある者は生肉コーナー近くの鮮魚コーナーで、加工された刺身を見ながらスタートダッシュが決められるポイントを陣取っている。またある者は、外で準備体操とイメージトレーニングを繰り返している。

 そんな戦場に二人の学生が入店してくる。

 一人は『焼肉定食』と大きく書かれたエプロンを着用した男子学生、もう一人は髪を後ろで縛った、ポニーテールの女の子だ。二人の温度差は傍から見ても分かりやる気を見せる少年と違い少女はだるそうにエコバックを持っている。

「ねー、ビニール袋じゃダメなの?」

「ビニール袋だとポイント加算してくれないんだよ、それに今日はポイント3倍デーだしね」

 少年はそう言うとお惣菜コーナーに向かい、お惣菜を選び出す。周りにいた猛者達は警戒を止め、四時を待つ。

 ライバルカウントされていない少年は飽きもせずお惣菜を見ている。

『四時になりました!! これよりタイムセールを開始いたします!!』

 まず一歩を踏み出したのは鮮魚コーナーの猛者Aだ、生肉コーナーに早足で近づく。ベストポジションまであと少し、油断していたのだろう、お菓子コーナーから華麗なコーナリングを決めイメージトレーニングをしていた猛者Bが滑り込んでくる。和牛が並べられるであろうポジションは確保されてしまった。

 この戦争の勝者は猛者Bかと思われたその時、猛者Aと猛者Bは気づいてしまった。普段ならこの決着のあと大量にやってくる猛者達が押し寄せてこないことに!

 猛者たちをさがすと一つのコーナーに群がっていた。

 そのコーナーはお惣菜コーナーである。生肉コーナーとお惣菜コーナーは加工場が一緒なため同じ入口から出てくるのである。

 完璧に出遅れた猛者二人は、飲料水のコーナーにいる学生に目をやる。

 二人の学生は猛者二人を見るとドヤ顔をして和牛を見せつけ、レジへと向かう。

 弱肉強食のこの戦争、今回は下克上で幕を閉じた……