召喚hshs

 一滴の赤黒い血が、柳原 拓海の指からコンクリートの地へと滴り落ちる。

 落ちた血は、まるで水面に落ちたようにコンクリートに波紋を描く。

 どこかのビルの地下駐車場、深夜ということもあって車は一台もない、その空間にいるのは2人の男の姿だけ。

 1人は、指から血をだしながらブツブツ言っているスーツの男、柳原 拓海、もう1人は、スーツを着て、右に白い手袋左手に黒の手袋をつけている宇地 霞。

 霞は拓海を睨みつけたまま、一歩も動こうとしない。

「召喚法第27、人間の一部を犠牲にして異界のものを召喚してはならない」

 霞は、つぶやくようにそう言うと右の手袋を外す。

 霞の右手には赤いインクで魔法円が描かれている、手をかざすと空中に魔法円が浮かび上がった。

『我と契約を交わした者、幾つもの姿を持つ竜の王よ契約の前に降臨せよ! バハムート!!』

 霞は念唱をすると、空中にある魔法円に向かって小瓶に入った赤紫の液体を投げる、吸い込まれるように魔法円に消える小瓶。

 小瓶が消えると同時に紫色の光が辺りを包む。

「じゃーん、呼ばれて飛び出してきました、バハムートのムーちゃんだよ!」

 光が収まると、2人しかいなかった空間に『哀』と書かれたTシャツに『2-Bかすみ』と書かれた青い短パンをはいた幼女が胸をはって立っていた。

「ムーちゃん、今回はこの会社を壊そうとしている馬鹿が召喚しようとしている奴をコテンパンにしちゃってください、会社をこわさないようにな!」

「い・や・だ!」

 拓海を指差して指示した霞だが、ムーちゃんに即答で断られた。

「僕、毎回いってるよね? ○ニッツメイドじゃなくて○ェルチにしてって!」

「お前が言ってたのは、『血のかわりにワインってありえないよね? だったら100%の葡萄ジュースがいいな、美味しい奴! トマトジュースにしたら殺す』だ!」

 霞は早口でそう言うとムーちゃんのおでこを小突く。

『ンッガァオォォオオ』

 霞とムーちゃんの声しか聞こえなかった空間に獣の雄叫びが響く。

「ゲッ、キマイラ? あれ? 拓海は?」

「『なんだこのクソマズい肉は!!』だって」

「食べちゃったんだ……」

 霞の目の前には、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ幻獣キマイラ。

『グルルルララァ』

「『お前、旨そうな匂い』だって」

「食べられちゃうんだ……」

 キマイラの瞳が霞をロックオンしている。

「食べちゃだめぇぇええ」

 ムーちゃんの叫び声が聞こえると同時に閃光があたりを包む。

 光が収まり目をあけるとそこは、地下駐車場のはずなのに夜空が拝める。

「あっ、……ほっほら! ムーちゃんってばおてんばさんだからさ」

 夜のビル街に、霞の怒鳴り声がこだましたある依頼の出来事。