死亡フラグ・ブレイカー

 なんてこった。

 マズいことをしてしまった。

 けれど、もう取り返しはつかない。どうしようもない。

 そもそも、台風が近づいて来ているっていうのに、谷を渡らなきゃ辿り着けないような場所の山荘に来たことから間違いだったんだ。

 案の定、山を下りる前に台風が直撃した。

 何十年も谷の両端を繋げてきた吊り橋が、今回に限ってあっさりと落ちた。

 そして極めつけは、たったの六人しかいない山荘での殺人事件だ。

 俺たち六人が、この山荘に来ていることは麓の人も知っているはずだ。だから、台風がすぎれば絶対に救助がくる。

 そう信じて、安心して、自由行動をしていたことが間違いだったのかもしれない。

 自室にいたタケシが、夕飯の時間になっても出てこなかった。

 様子を見るために、部屋に入ったことも間違いだったのかもしれない。

 タケシは首にロープを巻きつけられた状態で死んでいた。

 自殺とは考えられなかった。誰かが外から侵入したような形跡もない。

 なんたって外は土砂降りの雨だ。どうしたって、外から入れば中は濡れてしまう。

 となれば、残った五人……ユウキ、コウジ、カオリ、ハルカ、そして俺の中に、犯人がいる。

 もちろん、俺じゃない。「マズいことをした」というのは、そういう意味ではない。

 俺以外の四人の中に、犯人がいるんだ。

 だったら、言うことは一つじゃないか。


「人殺しと同じ部屋にいれるか! それなら一人で部屋にひきこもっていた方がマシだ!」


 ……これは、マズい。

 あのときは、友達のタケシが、同じく友達の誰かに殺されたって事実に、混乱してたのか何なのか、とりあえず正常な判断はできなかったというだけで。

 今、冷静に考えてみれば。

 これは、死亡フラグだ。

 次殺されるのは、一人になって狙いやすくなっている俺に違いない。

 だからと言って、みんなのいるリビングダイニングに戻れるかと問われれば、そんなことはなく。

 俺が一人でいることを選んだということは、無実の三人を裏切って疑ったということなんだから。

 あぁ、でも死にたくはないな……

 と、思っていると。

「ハイ! 『フラグは立てちゃったけど死にたくない』、そんなアナタのお悩みを! アナタの町の死亡フラグ・ブレイカー、遠藤さんが解決しちゃうぞ!」

 窓がガラリと開いて妙にハイテンションな声が、いやちょっと待て。

 なんだ、この状況。

 一見ただのキツネ目男だが、しかし、異常な点がいくつもある。

「誰だよ! というかどこから入ってきてるんだよ! つうか、待て、外すんごい雨降ってるのに全然濡れてないってどういうことだ! まさかお前が……」

「やだなー、遠藤さんはお前さんのことを助けに来たんだってば。ホントはもうちょっと早く来て、『山荘に大人数が取り残される』っていうフラグから折りたかったんだけど、レンタルDVDの延滞料金発生しそうだったからさー。遅れて来ちゃった」

 語尾に星がつきそうなくらいに、ふざけた調子で言う不審者は、言っている内容もことごとくふざけていた。

 助けに来た? フラグを折る? どういう意味だ。わけがわからない。

 夢なんじゃないかと思うくらいには、非現実的な話だ。

「遠藤さんは元・死の天使。それが堕天して死を避ける力を手に入れちゃったのさ。まぁ、魂をガンガン循環させたい天界からすりゃあ、ものっそい邪魔な存在になったってことなんだけど、『死にたくない』って思ってるひとを殺すのって、なんか違うじゃん? 遠藤さんは『生きたい』人を応援する堕天使さんなの」

 まぁそんなことはどうでもいい、と、遠藤と名乗る自称・元「死の天使」は、ひらひらと手を振った。

 開いているかどうか、見えているかも怪しいキツネ目で俺を見て、問う。

「死亡フラグ、折りたい? 折りたくない?」

 生きたいか、死にたいか。単純な問い。

 どれだけ相手が正体不明であっても、答えは最初から決まっていた。