らぶこめ

「ドジっ娘って、かわいいと思うんだよねぇ……」

 来月に控えた文化祭のクラスの出し物の案をつらつらとノートに書き留めていると、向かいの席に座った園田遥(そのだはるか)が、唐突にそんなことを言った。

「……は?」

「いや、だから、ドジっ娘って、かわいいと思うんだよねぇ。私」

「いやいや、そうじゃなくてだな」

 さっきの「は?」は、聞き直したのではなく、何言ってんだお前的な意味合いだったのだが、この女、この学級委員長、椅子の後脚二本でバランスをとりながらゆらゆらと体を揺らし、遠い目をしながら同じセリフを吐きやがった。

「そういうことじゃない? じゃあ、どういうことなの? 阿久津くん」

「どうもこうもないよ。今は他にやることあるだろうが」

 文化祭のクラスの出し物の候補選び。

 ホームルームで、真面目に一からクラス全員で案を絞り込んでいたら、とてもじゃないが終わらない。だから、時間短縮のために候補を委員長・副委員長(俺たち二人)で決めておこうという算段だ。

「っていっても、私たち二人が考えたところで、なにか出るとは思えないけどね」

「まあ、そこに関しては抜きん出たもんとかは、いらないだろ」

「何を言ってるの? 文化祭よ? 思い出に残るものじゃないと駄目じゃない! インパクトのあるものじゃないと駄目じゃない!」

「だったら真面目にやろう! ドジっ娘は置いておいて!」

「分かった分かった。分かりました」

「分かってくれたか」

「じゃあ、こうしよう。阿久津くんが案を出す。私はそれに駄目を出す」

「分かってねえ!」

 なんだか、クラス全員でやっても俺たち二人でやっても、あまり変わらない気がした。

「注文多いなぁ、阿久津くんは。それじゃあ参考までに、去年の阿久津くんのクラスは、なにをやったの?」

「えっと、メイド喫茶」

「冥土喫茶……? なんて荒々しくもおどろおどろしい」

「違う違う違う。あーお前絶対ちがう文字出てきてるよな? あの世にある喫茶店みたいな字面にしてるよな?」

「え。だってそうじゃない。阿久津くんがメイド服を着て接客してたんでしょ? 荒々しくもおどろおどろしく」

「俺は着てないよ! 着てたのは女子だよ!」

「そうなの? 残念……」

「心底残念そうな顔をしないでくれ……」

 きっとその根底には、俺の弱みを握れなかったという無念があり、それが大半を占めているのだろう。

「阿久津くんの弱みを握って、この仕事を押し付けて、早くおうちに帰って夕方の韓流ドラマを視ようと思ってたのに」

 大半というか、全部だったらしい。

 そこで諦めたのか、仕切り直しといった感じで、園田は手をパシンと叩いて言う。

「まぁいいよ。それにしてもメイド喫茶ね。ふうむ」

「園田、お前のとこは去年、なにやったんだ?」

「メイド喫茶」

「同じじゃねえか!」

「大きい声を出さないで。指をささないで。揚げ足を取らないで」

「なんだその三原則!」

 しかも揚げ足は取っていない。

「対等だ! あくまで対等だ! お前の暴言と俺のツッコミでイーブン! チャラ! 真っ平! 終わり!」

「はいはい。話、元に戻すよ?」

「ん、あ、おう。…………あれなんかおかしい。俺が悪いことになっている気がする」

「で、ああそうだ。去年のメイド喫茶の時、私は、メイド服の下に下着をつけていたかどうか。っていう話もあるんだけど、それはひとまず置いておいて、今年もメイド喫茶をやるかどうかって話だったね」

 いや、そんな話はしてないよ。

 今年もメイド喫茶をやるかどうかなんて、一言も言ってないよ。

「私としては去年と同じじゃ芸がないかなって思うんだけど、仕方ないよね」

「というか、ちょっと待ってくれ」

「うん?」

 俺はいま、聞き捨てならないことを聞いた。

「? …………ああ。やっぱり阿久津くんもメイド服着たいってこと? 大丈夫大丈夫! ちゃんと阿久津くんの分も用意するから」

「そこじゃない! 園田、お前、去年の文化祭の時、メイド服の下は下着をつけていなかったのか!?」

「えーまた去年の話、蒸し返すの? 阿久津くん、チャラって言ったじゃん。終わりっていったじゃん」

「事情が変わった! 終わってない! ぜんぜん終わってなんかいない! お前、メイド服ってスカートなんだぞ。風に吹かれればそれでめくれてしまう防御紙の衣服なんだぞ。その下に下着をつけていないとしたら、お前、やばいぞ!」

「別にいいじゃん。私がどんな格好したって」

「よくない! お前は知らないんだ! 世間がどんな目で女子高生を見ているのか……! だから明言しろ! お前は去年の文化祭、下着をつけていたのかいなかったのか!」

「……ふうむ」

 園田は呆れたように息を吐き出して、頬を掻きながら言う。

「私はメイド服の下に、ブルマを着用していました」

 結論、新機軸かつ斬新な組み合わせが誕生した。