ふろうふし

　防御。訂正、回避。否、

　──迎え、討て……!!

　殺到する剣閃。飛ぶ斬撃。迫りくる百数太刀の合間に回避の余地はなかった。たとえあったとしても藤堂仁（とうどうじん）には避ける理由がなかった。

　そう。一言でいうなら、藤堂仁には理由がない。

　迫る剣閃三太刀を横殴りに吹き飛ばす。続く大小五つの閃きを右脚でかち上げ、その後ろから飛来する低めの斬撃を踏み潰してにじり、直後に飛来する上中下縦に並んだそれを叩き伏せる。意表を突くように曲線軌道を辿る斬撃が左右から藤堂を挟み込み、必殺の剣閃に混じった牽制の偽撃が空を切って、「──ぉ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

　咆哮と共に繰り出す藤堂の四肢が、斬撃をねじ伏せ、叩き伏せ、蹂躙する。

　だが、応じきれない太刀もある。剣士から離れてなお、対応した拳や脚を痺れさせる剣圧を纏った斬撃。取りこぼし、両断された腕が床にどさりと落ちて転がった。しかし転瞬。腕は消えてなくなり、失ったはずの藤堂の左腕が何事もなかったかのように身体に戻っていた。

　──痛覚を意に介すな。意識を繋ぎ留めろ。

　右脚が吹き飛ぶも藤堂は剣閃を叩き伏せる。

　──臆すな。死には程遠い。

　僅かな時間差で放たれた斬撃数太刀を蹴り上げ殴り飛ばし跳ね返す。

　──忘れんな。儂は不死の身体。

　足りない。もっと。理由を。戦う訳を。

「……退かぬか。噂通り狂っているな、藤堂仁」

　十メートルほど先。長廊下の突き当たり、扉の前で佇む剣士は剣を鞘に納めながら無表情で言葉を発し、踵を返す。そして手を伸ばす。扉に立てかけられた刀身二メートルは下らない長剣へ。

「先ほどまでは警告。そしてここから先は本気の死合いだ」

「ならさっさと儂を殺せよ。小僧」

　瞬間床が爆ぜ、二人の姿が消失した。