三 日・沈む

「序列九位〈天使〉の一柱。下界での活動時間が多くなるに従い、与えられた名はフェリクス」

 冷たい深海のような瞳を持つ天使は、そんな自己紹介と共にシルヴィの前に現れた。

 その背に翼はないものの、〈悪堕ち〉へと挑もうとするシルヴィを結果的に短時間足止めした〈主天使〉で間違いない。序列は四位であったから、五段階の降格を経て地に降りたことになるのだろう。

 万物の創造者である主が創った天使は、厳格な序列社会の上に生きている。一位から九位まで、役割ごとに区別された天使の中でもっとも数が多いのが序列九位の〈天使〉だ。多くの天使と主が住まう天界から降り、人間に寄り添う役割を持っている。

 ゆったりした聖職者のような服を着ているのは、人間と共に生きる〈天使〉として社会に適応しようとした結果なのかもしれない。

「〈悪〉へと近づいた〈悪使い〉に興味を示した主から、対象の監視を命じられた」

「……どういうつもりだ」

 平坦に告げる天使・フェリクスに対し、シルヴィの声は冷たく素っ気ない。

 彼女の姿には変化が生じていた。後頭部で束ねられていた赤毛はばっさりと切られ、肩の高さで整えられている。切れ込みが入り、血に汚れていた衣服も、高級ではないものの新品に変わっていた。

 向かい合う二人の現在位置は、港町・アンブシュール。その中の、海岸線沿いを走る道の端だ。